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新着情報

2022.09.30
ライブラリー

【NICEライブラリー】10月のおすすめは『結局、どうして面白いのか:「水曜どうでしょう」のしくみ』です!

NICEプログラムには、学修デザインに役立つ各分野の入門書を集めた「NICEライブラリー」があります。
毎月、ライブラリーから選んだ本を中心に「今月のおすすめ」として紹介しています。

10月のおすすめは、佐々木玲仁 著『結局、どうして面白いのか:「水曜どうでしょう」のしくみ』です。

「水曜どうでしょう」という、旅番組の体裁を採ったテレビ番組があります。
1996年に北海道テレビ(HTB)で放送が始まったこの番組は、2002年のレギュラー放送終了後に
全国各局で再放送が始まり、コアな人気を博すに至りました。
いまも不定期特番の放送が続いている驚異のローカル番組です。

この本は、「『水曜どうでしょう』と臨床心理学のカウンセリングには通じるものがある」という
著者の直感からスタートしています。著者は、大学の教育学部に所属する臨床心理学の研究者です。
文章は、まるで授業が展開していくような口語体の講義形式を採り、第1講から6講まで、
この番組の面白さを支えるしくみを段階的に分析していきます。

第1講:物語の二重構造
第2講:世界の切り取り方と世界までの距離
第3講:偶然と反復
第4講:旅の仲間のそれぞれの役割
第5講:結局、どうして面白いのか
第6講:「水曜どうでしょう」とカウンセリング

講義タイトルだけ見ると、難しい印象を与えてしまうかもしれません。
ですが、番組ディレクター2人のインタビューが豊富に引用されているだけでなく、考察もわかりやすく
図示されているので、読者が置いてけぼりになることはありません。

この本のタイトルにある「結局、どうして面白いのか」は、この番組のさまざまな要素が相まって
「身内感」を視聴者に与えることだと解明されています。
それは、「内輪」という言葉が示すような閉じた排他的なものではなく、視聴者のひとりひとりが
「そこにいて当たり前」という存在の肯定です。

そして、カウンセリングとの類似点は、最初からたどり着くべきゴール(面白さ/治療)を定めて、
そこを目指すのではないというところ。むしろ、旅や対話のプロセスで遭遇する「可能性の雲」を前にして、
状況に応じて「よい」と思えるものを選んだ先に、「結果としてよかった」という地点にたどりつくところ
だと述べられています。

この本で扱われている、物語構造、距離(=カメラワーク、視点人物)、偶然と反復、旅の仲間(=登場人物)は、
映画や文学テクストなどを分析する際に援用できます。
ですので、カウンセリングや心理学に興味のある人だけでなく、表象文化全般についてその面白さを
解き明かしたいと思っている人にもおすすめです。
もちろん、「水曜どうでしょう」を愛してやまない視聴者のみなさんには、数々の旅の思い出を振り返る
機会になるでしょう。

根強い人気を集めるものには理由がある。
だとするならば、「すたれないもの」が持つ心理的効果について考えてみることは、
文化が「不要不急」とされたあの期間を、批判的に振り返ることでもあるはずです。 (神田麻衣子)