確かな専門の学びと幅広い学びを実現するメジャー・マイナー制

新潟大学 全学分野横断創生プログラム新潟大学 全学分野横断創生プログラム

新着情報

2023.06.29
ライブラリー

6月のおすすめは『LGBTヒストリーブック』です!

NICEプログラムには、学修デザインに役立つ各分野の入門書を集めた「NICEライブラリー」があります。
毎月、ライブラリーから選んだ本を中心に「今月のおすすめ」として紹介しています。

6月の終わりの提示となってしまいましたが,今月のおすすめは
『LGBTヒストリーブック:絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』です。

6月は,LGBTQ+というアイデンティティやその尊厳に関心を向ける「プライド月間」です。
1969年6月28日,アメリカ・ニューヨークのゲイ・バー「ストーンウォール・イン」への
警察の家宅捜索への反発が,3日間におよぶ暴動に発展しました。
のちに「ストーンウォールの反乱」と呼ばれるようになったこの出来事は,
LGBTQ+の権利を求める運動が市民権を得ていくターニングポイントとなりました。
6月が「プライド月間」となったのは,これに由来しています。

とはいえ,1969年6月28日が,LGBTQ+の歴史のはじまりなのではありません。
本書『LGBTヒストリーブック』に掲載されている年表は,
紀元前570年の「ギリシャの詩人サッフォーが死ぬ」を起点として設定し,
2016年「オバマ大統領,ストーンウォール・インをナショナルモニュメントと宣言」で終わっています。
性的指向や性自認(Sexual Orientation and Gender Identity: SOGI)は最近のイシューであると思われがちですが,
人間が生きてきた時間と等しく存在しているのだということに気づかされます。

人間が生きてきた時間のなかでも,本書が焦点を当てているのは,1900年以降の約100年というタイムスパンです。
アメリカを主な舞台として提示される100年の歴史,その章立ては以下の通りです。

第1章 1900年まで:歴史をざっとおさらい
第2章 1900年~1930年代:運動の始まり
第3章 1940年代~1950年代:暗闇の中で
第4章 1960年代:クローゼットから出て
第5章 1970年代:街へ出よう
第6章 1980年代:エイズと保守の巻き返し
第7章 1990年代:揺り戻し,そして勝利
第8章 2000年~現在:いまよりすべてがよくなるさ

本書で特に読みどころとなるのは,第6章「1980年代:エイズと保守の巻き返し」でしょう。
1960~1970年代は,LGBTQ+のほか,黒人,女性,アメリカ先住民といったマイノリティの権利運動が
一定の成果を挙げた時期でした。
しかし,続く1980年代のエイズ(ヒト免疫不全ウイルス: HIV)の感染拡大は,
特にLGBTQ+コミュニティにとって大きな打撃となりました。

免疫システムが破壊される病気によってコミュニティの成員が死んでいく,
けれどもその詳細はわからない。
その伝染病についてわかってきても,治療薬はない。
そして感染者は激しく差別される。

この一連の流れは,新型コロナウィルス(Covid-19)の感染拡大を経験した2, 3年前のわたしたちを彷彿とさせます。

Covid-19は空気感染するがゆえに,社会の成員すべてが当事者でした。
一方で,HIVの主な感染経路は性的接触であり,それゆえにLGBTQ+コミュニティが問題の当事者とされ,
差別のターゲットとなりました。
ふたつの伝染病は別物であり,ここで並列して語る必要はないかもしれません。
ですが,わたしたちがCovid-19一色の世界から受けた衝撃や恐れ,日常の重苦しさ。
あの感覚をもって1980年代のLGBTQ+コミュニティに心を寄せることも可能なのではないでしょうか。

「新潟大学における性の多様性に関する基本理念と対応ガイドライン」において,
アライ(Ally)は,「性の多様性を理解し、意識的に行動していこうとする人」と定義されています。
「知る」と「行動」の間にある距離を埋めるものが,自己の経験を敷衍したところに生まれる
共感であるとするなら,本書はその第一歩となる一冊です。

本書は,LGBTQ+についてちゃんと知っておきたい,より包摂的な社会を実現したいと思うアライはもちろん,
自分のSOGIに誇りをもって生きていきたいと願う人を勇気づける一冊です。 (神田麻衣子)

新潟大学における性の多様性に関する基本理念と対応ガイドライン
https://www.niigata-u.ac.jp/university/about/operation/nu_diversity/sogi-guideline/