新潟大学 デジタルことばの窓

"安寧하세요?"
(アンニョンハセヨ,安寧でいらっしゃいますか)

あの○や□がどうしても文字に見えない!と,思っているあなた,でも「それ」が文字に見えるか見えないかは,単に「慣れ」の問題ですから(ひらがな・カタカナだって,知らない人にはとっても変に見える), 無機的に見えるこの文字を解読してやる!くらいの気持ちでとりあえず,にらめっこしてみましょう。

ま さ み という名前をアルファベットで表記すると,

MA SA MI ですね。

では,これをいきなりですが,朝鮮文字(大韓民国ではハングル=20世紀初めの言語学者, 周時経(チュシギョン)の命名で「偉大な文字」という意味, 朝鮮民主主義人民共和国ではチョソングル=朝鮮の文字と言います)で書いてみます。

마 사 미

M-ㅁ,A-ㅏ,S-ㅅ,A-ㅏ,M-ㅁ,I-ㅣ

というふうに,ローマ字1文字に,朝鮮文字1文字が対応しています。朝鮮文字は,ローマ字と同じ「表音文字」なのです。ですから,子音を表す文字(ㅁ,ㅅ)と母音を表す文字(ㅏ,ㅣ)が,上下左右に組み合わさって,[ma]の音の文字「마」,[sa]の音の文字「사」,[mi]の音の文字「미」になります。

ところで,朝鮮文字はどうしてあんな形をしているのでしょう? この文字は1443年、朝鮮王朝4代目の王、世宗が中国の音韻学を学者とともに研究して作ったもので、当初「訓民正音」と呼ばれました(それまで、朝鮮では漢字の音や訓を用いて朝鮮語を表記していました)。たとえば [m] を発音するときには、唇は閉じたままで、息を鼻から抜きますね。それで閉じたままの口をかたどって、「ㅁ」の文字ができました。[k] を発音するときには、舌の後ろが盛り上がってのどをふさぎます。それで「ㄱ」としました。[n] のときは、舌の先が上の前歯の後ろにくっつきます。それで「ㄴ」。[t] は、舌の先が上の前歯と歯茎の境につくところは [n] と同じですが、舌でいったんせき止められた息が、破裂するように出るところが、[n] と異なります。それで、[n] にふたをして、ㄴ+ ̄= ㄷ。「ㅅ」は、歯と舌で作る狭いすき間から鋭く息が出るので、歯の形から「ㅅ」。

というふうに、ハングルの子音字は、その音が発音される時の発音器官の様子をかたどって、作られています。560年前の朝鮮王朝の学者たちのすばらしい観察力。繰り返しますがハングルは「表音文字」です。

朝鮮語使用人口は、世界でおよそ7,000万人。世界で15,6番目の多さでイタリア語と同じくらいです(日本語は9番目)。朝鮮半島、中国東北部、日本、ロシア、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどに彼らは住んでいます。

さて、日本語を母語とする人たちには朝鮮語は学びやすい言語だ、とよく言われます。その秘密は、語順がほぼ同じ、というところにあります。

私は 大学生です。 朝鮮語を 専攻して います。

저는 大学生입니다. 朝鮮語를 専攻하고 있습니다.

저는 대학생입니다. 조선어를 전공하고 있습니다.

三番目の文はハングルだけで書いたものですが、二番目の文と比べてみると、「見た目はハングル、中身は漢字語」というのがよく分かるでしょう。また,主語+目的語+述語、という語順も日本語と同じです。だから、極端な話、思いつくまま単語だけ並べても、こちらの言いたいことは何とか分かってもらえます(たぶん)。

環日本海(ちなみに朝鮮半島から見れば東の方角なので,彼らは東海=トンヘと呼ぶ)に位置している新潟なら,家にある普通のラジオで韓国KBS( 日本で言えばNHKかな)の地方放送や北朝鮮のピョンヤン放送が聞けるし,短波ラジオがあればロシアの朝鮮語放送も聞こえます。

また,インターネットで韓国の新聞(日本語版もあるよ)を読んだり,週間ヒットチャートを聴いたり,全国の図書館の蔵書検索や新聞記事検索,テレビやラジオをリアルタイムで無料で楽しむこともできます。もちろん電子メールやチャットも。WindowsXPには韓国語フォントが既にインストールされていますし,それ以前のOSでもマイクロソフトのホームページから「MS Global IME for Korean with Language Pack」をダウンロード(無料)すればOKです。

新潟空港から飛行機で約2時間,インチョン(仁川)国際空港がある韓国イナ(仁荷)大学からの交換留学生をはじめ, 韓国や中国東北部から約50名の留学生が新潟大学で学んでいます。日本に興味を持ち,日本語を学んではるばる来てくれた彼らに, 彼らの言葉でお礼を言ってみましょう。

「感謝합니다!(kamsa hamnida, 感謝します)」

日本と南北コリアは長い間「近くて遠い国」と言われてきましたが, 今は日本から年間300万人が韓国を旅行する時代,私たちの隣人(100万人を越える在日コリアンは,本当にお隣さんだ)に, おぼえたての朝鮮語で,照れくさくても話しかけてみましょう。彼らの目を通して,私たちが住んでいるこの日本という国や, 私たち自身についても,何かきっと新しい発見があるはずです。